勇者の旅は終わったはずじゃ・・・第3話
いよいよ今日が出発日だ。
王との待ち合わせは10時に俺の店の前になっている。
俺は5分前に店の外にでる。
すると何やら突如、俺の目の前に大きな穴ができ、そこから・・・
「よおレオン。3日ぶりだな。」
俺は素っ気なく返事を返す。
「どーも。それが噂の移動能力ですか?」
「相変わらず冷たいなー、お前は。そう!これが移動能力。そしてこやつが移動能力の使い手、ルラだ!」
「お、お初にお目にかかるであります!自分はルラと申っス!本日は伝説の勇者様とご同行できるなんて感激であります!」
ハキハキとした自己紹介をし、目をキラキラと輝かせている少女だった。
「あ、ああ。よろしくルラ。俺はレオンだ。」
俺はそう言って右手を差し出す。
昔から知り合った人とは握手をすると言うのが良いと聞いて以来、ずっと取り入れている風習だ。
「こ、こちらこそよろしくであります!」
そう言った彼女が両手で俺の手を強く握りしめてくる。
あのそろそろ離してくれないかな?
俺の右手が取れちゃいそうなんだけど。
「彼女はお前に憧れているそうだぞ。よかったなあー伝説の勇者レオン殿。」
王様がニヤニヤしている。
俺が能力を使えないことを知っているくせに。
ふと彼女の方に視線を向ける。
照れたような笑みを浮かべている。
やばいな。
これは俺が無能力者だと知られれば一発でアウトだ。
俺の能力がないことを知っている人物は、かつて冒険を共にした仲間とこの王様だけである。
前魔王を今まで7人の勇者が挑み、敗北をしてきた。
その前魔王を俺が倒したことにより、人類最強となった。
そのおかげで、悪いことをした子供達には「そんな悪いことをしていると勇者様でなく、魔王になってしまうわよ」と言えば子供達は悪さをやめ、犯罪をすると勇者様に倒される、と言った犯罪の抑止力的な存在になっているのだ。
しかしどうだろう?
そんな奴が実は能力が使えず、むちゃくちゃ弱いだなんて周りが知ったら。
そうなると勇者という絶対的な存在は消え、周りは絶望し、犯罪は起こり、この世界が混沌と化してしまう。
流石にそれは大げさかもしれないが、実際に抑止力となっているのは間違いない。
だから、俺が能力を使えないということは国家機密である。
「ではレオンよ。ルラと共に、一度我が城に来てもらうぞ。そうしないと私が帰れないからな。」
「もちろんです。それにルラの能力が見られるなんて嬉しいですし。」
「ゆ、勇者様が自分に期待してくれてっ・・・!うへへへへ。」
す、すごく嬉しそうだ。
俺は単純に移動能力を見てみたかっただけなのだが・・・
まあ彼女がやる気を出してくれるならそれで良いか。
「うむ。ではルラよ。頼んだぞ!」
「任せてくださいっス!みなさんいくでありますよ!」
一瞬にして我々の目の前に人が通れるぐらいの楕円形をしている空間が現れた。
「ではみなさん、行くっスよ!」
「これに入れば、もう城に。」
俺は驚きを隠せなかった。
冒険をしていた当時も何人かの能力者とは知り合ったが、こんな能力は初めてみた。
「では我が城に行くぞ!」
**********
俺はパッと目を開く。
部屋の中。
昔、よく来た懐かしい王の城。
王との謁見の間。
ではなく、大きなベッドが置かれた部屋だった。
「王様は王妃という方がいながら、こんな子にまで手を出していたんですね。」
「ち、違う!誤解だ!言ったであろう、個人的な依頼だと!このことを知っているのは前に来た使者とルラだけだ!だから人目につかないであろう寝室を選んだだけだ!」
「冗談ですよ。そんなこと俺が思うわけないじゃないですか。」
「その割には目が冗談って言ってないんだけど。」
「二人ともお話中、申し訳ないでありますが、早く行かなくて大丈夫っスか?王様はバレたらまずいと・・・」
「そうであった。」
ルラの正論すぎる正論で大人二人が我に返る。
「と言うことで調査の方は任せた。あとはうまくやるように。」
あまりにも雑な王様のありがたい言葉を聞いて、俺らは再度、ルラの作る移動能力で俺の田舎町まで戻った。
王の城があるここからよりも、俺の田舎町の方が近いからだ。
直接、ミケ神殿に向かった方が早いのだが、それはできない。
なぜなら特殊系の能力には「制約」と言うものがあるからだ。
能力には大きく分けて、属性系と特殊系の二つに分けられる。
属性系と言うのは、火、水、雷、植物、土、風の6属性があり、それらを使うのに自分の魔力を消費し、自分の持っている属性の能力を使うことができる。
つまり魔力の消費だけで能力を使えるのが属性系。
反対に特殊系の能力というのは、属性系の能力に当てはまらないもの全てに該当する。
特殊系は属性系とは違い、魔力を消費するのに加えて、「条件」というものが存在する。
条件と魔力が合わさって初めて能力を使うことができる。
例えば、ルラの場合は魔力を消費して、移動空間を作り出し移動するというのが能力である。
ただし、条件として一度言ったことのある場所でないと行くことができない。
つまり条件下に該当されない場合は制約という縛りを受け、能力の発動ができない。
特殊系は条件にハマればすごい場合もある。しかし、必ずしも良い事ばかりではない。
これが能力の難しいところだ。
「じゃあここからは歩いて行くからな。つっても3日はかかるけど。」
「大丈夫っス!勇者様と一緒であれば100人、いや1000人りきっス!」
キラキラして疑うことを知らない、そんな目で言ってくる。
「ははは・・・。」
俺は笑ってごまかすことしかできない。
彼女の中の勇者像を崩したくない気持ちと、俺に向けられた期待に答えたいのと両方があい混じっている。
とりあえず、何事もなく無事にたどり着ければ良いのだが。
一番の懸念は王に情報を流した者だ。
今回の件で、俺たちがミケ神殿に行くという情報を知っていないとは限らない。
なぜなら、その情報を王に与え、王がそれで動く人物だと知っているからだ。
そうなるとどこかで接触してくるかもな。
とは言っても相手が何も仕掛けてこないうちは、こちらからも仕掛けようはない。
今は王の依頼をこなすしかない。
俺たちはミケ神殿まで向かうのであった。
それから二日の夜。
俺らは魔物たちを倒しながら、ここまで来た。
後一日もしたら、ミケ神殿まで着くだろう。
俺は夜営で、見張りをする。
このあたりにいる魔物は夜になるとあまり活発には動かなくなるが、一応用心するに越したことはない。
ルラは戦闘はできないので、俺がこの二日間は見張りになった。
あまり寝れてはいないのだが、不思議と昔夜営をした経験から、寝なくても眠くならない。
まあ当時はより過酷なものであったしな。
今思うとよく生きてたな、と思う事もある。
「レオン様あ〜!」
「なんだ、寝れないのか?睡眠は大切だぞ、寝られるときに寝ておけよ。」
「なんかお話ししてほしいっス。」
「え?はあ?」
ルラは照れたように頷く。
「せっかくレオン様といるのにあまりお話しできていないなーと思って。レオン様の旅のお話しとか聞きたいっス!何でもいいので話聞いたら寝るっス!だから・・・。ダメッスかね?」
「良いよ。その代わり聞いたらすぐに寝ろよ。」
やったーと嬉しそうにルラがはしゃいでいる。
その光景を見ているだけでなんだか嬉しくなる。
「ルラは能力って何であるのか聞いたことある?」
「能力スか?魔王を倒すために神様がくれたと聞いたことがあるっス。」
「そうだね。そう言われているよね。でも、魔王を倒しに行くのって選ばれた4人だけでしょ?そしたらこんなに能力者はいらないと思うんだ。」
「確かにそうっスね。レオン様はなんて聞いたんスか?」
「俺は能力は人のためにあるって聞いた。」
「人のためスか?」
ルラは驚いた表情をする。
俺は頷いた。
「そう。人のため。魔王を倒すだけなら、4人に能力を授ければ良いだけだし。でも現にルラは魔王を倒さないのに能力を持っているよね?」
「確かにっス。」
「俺たちが協力して生きていけるように神様がくれたもの。それが能力だって俺は聞いた。字を書くのができる人、薪を割るのが得意な人。能力ってある意味それと同じで個性の一つみたいなものなんだよね。」
「個性?」
ルラが首を傾げている。
「そう。個性。みんな同じじゃない。それぞれできることがあるんだ。非能力者の人だって能力者であったって。できることは違うけど、同じ人間なんだ。だからみんなが協力して暮らしていけるように、より便利に暮らしていけるように神様がくれたのが能力なんだって。おしまい。」
ルラは拍手喝采する。
なんか恥ずかしいな。
「すごいっス。とっても素敵な話っスね。」
ルラはとても感激してくれた。
「そう。だから能力は人のために使えってこと。ルラの能力はまさにだよね。」
「確かにっス!なんか嬉しくなりますね!」
「でしょ?と言うことでおしまい。明日も早いから早く寝ろよ!」
はーいと大きな声で返事し、ルラは寝に行った。
俺は見届け、剣を見た。
「能力は人のため・・・か。じゃあ俺は今何のために・・・」
俺は空を見上げる。
全然気づかなかったが、月明かりがとても綺麗で輝いていた。