ラブストーリーは突然に・・・

「それじゃあまたね」「バイバーイ」

 

はあ。今日もひなこちゃんは可愛いな。

僕も「またね」ぐらいは言ってみたいけど、僕なんかが話しかけたら気持ち悪がられるだけだよね。

はあ。

 

「だーいき。何してんの?」

 

「う、うわあ!ってなんだかのんか・・・。」

 

「なんでそんながっかりしてんのよ?」

 

「いや、そんなことはないよ。」

 

「ふーん。まあいいけど。ってかさ。週末だいきの家行っていい?一緒にテスト勉強しようよ!」

 

「え?まあ良いけど・・・。」

 

「じゃあ決まり!また明日ね!」

 

「うん」

 

そう言うとかのんは去っていった。

 

かのんとは幼馴染で親同士の交流もあり、昔から仲が良い。

高校になった今でも同じ学校に通い、こうして一緒に勉強したりする。

とは言ってもほとんど僕が教えてあげるだけなんだけどね・・・。

 

この勉強会にひなこちゃんが来てくれるとか言うイベントがあれば・・・。

なんて妄想もするけど来てくれるわけないよね。

だってそもそもそんな勉強会があるなんてひなこちゃんは知らないし。

 

今週が終わればテスト休み期間に入っちゃうから1週間は会うことがなくなる。

 

本当は誘いたいけど、今まで話したこともないし、僕なんかが話しかけたら気持ち悪がられるだけだし、そもそも僕が誘うなんておこがましいし。

 

だからいつも遠くで眺めるだけ。

 

はあ。

自分の不甲斐なさにため息しか出ないよ。

とりあえず帰って勉強しよう。

僕は帰路に向かった。

 

 

「またね。」「うん!来週のテスト頑張ろうね!」「うん!」

 

気づいたら金曜の放課後になっていた。

 

はあ。

結局誘えなかったな。

 

僕はひなこちゃんが教室から出る後ろ姿をただ眺めていることしかできなかった。

 

はあ。

大きなため息が溢れる。

 

「だーいき!」

 

「お、うわああ。ってかのんか。」

 

「テンションの落差!ぼーっとつったってたけどどうしたの?」

 

「い、いや、なんでもないよ。」

 

「ふーん。ねえ週末って言ったけど、今日だいきの家行っても良いかな?」

 

「え?まあなんもないから別に良いけど、なんかあるの?」

 

「あるに決まってるでしょ!勉強教えてもらうの!」

 

「すでに他力本願かよ・・・。」

 

「えへへ。じゃあ決まり。レッツゴーだいきハウス!」

 

「はいはい。」

 

かのんと僕の家に行くことになった。

 

 

「お邪魔しまーす。」

 

「あら、かのんちゃん久しぶりね。なんもないけどゆっくりしていってね。」

 

「はい!そうさせていただきます。」

 

もう長年の付き合いもあるから、そんなふざけたことも言えるのだ。

 

うちは二階建ての一軒家で僕の部屋は二階にある。

 

「相変わらずなんもない部屋だよね。」

 

「別にこれという趣味もないからね。それよりもさっさと勉強始めるよ。」

 

「うーん、それも良いんだけど・・・。」

 

「なんかあるの?」

 

「そのさ。」

 

「うん。」

 

「あの・・・。」

 

「どうしたの?言いたいことあるなら早く言ってよ。テスト勉強したいしさ。」

自分から勉強教えてとか言ってくるわりに、こうして勉強するのを引き伸ばしたりする。

毎度のことだから慣れてる。そういう時はさっさとかのんの用件を済ませて、テスト勉強せざるを得ない環境にするのだ。

 

「そのさ。」

 

まだ言うのを躊躇ってるようだ。

こう言う時は下手に促しすぎたりすると後々めんどくさいことになるから黙って相手から切り出してくるのを待つ。

長年の付き合いは伊達ではないのだ。

 

「だいきって好きな人いるの?」

 

はいはい。今日は好きな人についてね。

好きな人ね。

好きな人・・・。

 

好きな人・・!?

 

「ええええええええ。どどどどどどど、どうして、と、突然そんなこと聞いてくるの?」

 

「その反応やっぱりいるんだ。」

 

「べ、別にかのんには関係ないだろ!なんでそんなこと聞いてくるんだよ!」

 

「もしさ。私がだいきのこと好きって言ったらどうする?」

 

「え?いや、その・・・。」

 

「はっきり言って!付き合ってくれるかどうか!」

 

「いや、その・・・。」

 

かのんとは長い付き合いだし、すごく大切な人だ。

だけどそれは恋愛とかそう言う感情ではない。

友達と言うかもう・・・。

家族みたいなものだ。

 

だから正直、付き合うとかそんなことは考えてもなかった。

 

「すぐに即決できないってことはやっぱり私とは付き合えないんだね。」

 

「それは・・・。」

 

かのんは視線を落とす。

 

「私ね。ずっとだいきのこと好きだったの。もちろん今でもよ。」

 

「え?」

 

「覚えてる?私たちが幼稚園にいた時、だいきが私に結婚を申し込んでくれた時のこと。」

 

「ごめん。全く・・・。」

 

「だよね。私すっごい嬉しかったの。あの時からだいきのこと好きなんだって。きっとこれからもずっとお互い好きで、大人になったら結婚するんだって。きっとだいきも私と同じ気持ちなんだろうって思ってた。でもね私知っちゃったの。」

 

「な、何を?」

 

「決まってるじゃん。だいきがひなこちゃんのことが好きってこと。」

 

「え?なななななな」

 

「すごい動揺してるね。私が告白しても動揺しなかったのに。」

 

僕は慌てて口を塞ぐ。そして自分の気持ちに本当の意味で気づいた。やっぱり僕はかのんのことは・・・。

 

「だいきはずっと私のこと好きだって思ってたの。でも違った。だいきは私のことなんて見てなかったんだって。他に好きな人がいるんだって。そう思ったらいてもたってもいられなかった。でも私が告白したら振り向いてくれるかもって思ってた。だってずっと一緒にいたし、誰よりもお互い近くで接してきた。だからだいきに好きな人がいても振り向いてくれるかもって。でも違ったの。」

 

「だいきは私のことなんて好きじゃなかった。私だけの勘違いだった。」

 

「だから思ったの。」

 

私を好きじゃないだいきなんていらない。」

 

突如、彼女の全身を黒紫の布が覆い尽くす。

「嫉妬」の二文字が書かれた鋼鉄製のメンポが彼女の口元を覆う。コワイ。

 

「ドーモ、メンヘラーです!」

 

ナムサン!かのんはニンジャだったのだ。

 

「アイエエエエエエエエエエ。」突如のことにだいきの頭は追いついていないようだ。

 

「アイサツせよ!」

メンヘラーはジゴクめいて言う。

その瞳が赤くセンコめいて光る。

 

「ド、ドーモ、メンヘラー=サン。カソク・ニンジャです!」

 

メンヘラーはジュウジツの構えを取る。

「だいき、殺すべし・・・。」

 

「ナンデ?ナンデ殺す?」

 

「オヌシが私を好きではないからだ。」

 

理不尽!なんたる理不尽か。これがマッポーの世のいったんであろうか?

 

「来い!だいき=サン。せめて元好きだった者であるせめてもの慈悲だ。一瞬で殺してやる。」

 

「イヤアアアアアア!」先手はメンヘラー。

凄まじいダッシュからの首を狙ったチョップを繰り出す。

 

「イヤーッ!」だいきは3連続バク転でこれを回避。

「イヤーッ!」そこからスリケンを3枚投擲。

 

「イヤーッ!」「何?」ゴウランガ!突如メンヘラーの手から黒い炎が噴き出し、だいきの投擲したスリケンを燃やし尽くす。

 

「それで終わりか?だいき=サン。」

 

「まだだ!イヤーッ!」

だいきはスリケンを3枚投擲。

 

「イヤーッ!」またもや黒い炎がスリケンを燃やし尽くす。

 

「何度やっても同じことだ。」

 

「どうかな?イヤーッ!」

だいきは右チョップを繰り出す。

 

「ヌウッ!」

それをとっさにメンヘラーは左手でガード。

 

ハヤイ!

だいきはスリケンを投げると同時にダッシュし、メンヘラーの隙をついて反撃に出たのだ。

 

「イヤーッ!」今度は左からボディブロー。

 

「な、何!」長年の付き合いからか?だいきの攻撃が読まれていたのだ。

だいきは腕を掴まれる。

 

「イヤアアアアアア!」メンヘラーはそこからだいきを振り回し、叩きつける。

 

「グワーッ!」だいきはこれをもろに食らう。

 

まずい。このままではやられる・・・!

 

メンヘラーはジゴクの蒸気を放ち近づいて来る。

 

「ハイクを読め!だいき=サン!」

 

「まだだ!イヤーッ!」だいきはスリケンを2枚投擲。

 

「こんなものは通じないと。イヤーッ!」

メンヘラーは黒い炎でスリケンを燃やす。

 

「イヤーッ!」

バリーン!だいきはスリケンを投げ、それに気をとらせることで注意をそらし窓から逃げ出したのだ。

 

 

「ハアハア。あの狂人め。」

だいきはダッシュして逃げていた。

 

だいきのカソクジツは体力を消費する代わりにスピードを生むことができる。

これにより先ほどのスリケンを投擲した時に一瞬でメンヘラーとの間を詰めることができたのだ。

 

「ハアハア。とりあえず逃げ延びればチャンスはある。まだひなこ=サンに告白もしていないのに死ぬわけにはいかない。」

 

だいきは周囲を警戒しつつ、ダッシュし追手がこないことを確認して路地に入る。

 

「どうやら付いて来てないようだ。少しカソクジツで消耗した体力を回復させるとしよう。」

 

「鬼ごっこはもう終わりか?だいき=サン。」

 

背後から声がした。嘘だろ。だって完璧に巻いたはず・・・。

 

だいきは背後を振り返る。

 

暗闇から赤くセンコめいて光る目と合う。コワイ。

 

「ナ、ナンデココニ?」

 

「状況判断だ。」

 

おかしい。だって付いて来てなかった。

それに俺のカソクジツに付いて来れるはずもない。

 

「サンシタのジツごときにこの私が遅れを取るはずがなかろう。」

 

コトン。コトン。

怪しく光る赤い目が近づいて来る。

 

待って。やだ。まだ死にたくな・・・。

 

「アイエエエエエエエ!」

 

恐怖の叫びがその夜、響き渡った。

 

 

***************

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「これで今日のテストは終わり。明日からも頑張るように。」

 

はーい。生徒たちの元気な声が教室に響き渡る。

 

「ねえ、かのん=サン。」

 

帰ろうとしたかのんにひなこが話しかけて来た。

 

「どうしたの?ひなこ=サン。」

 

「今日テストなのにだいき=サンがいなかったけど・・・。かのん=サン何か知らないかと思って。幼馴染だって聞いたし。」

 

「うーん。風邪でも引いてるのかな?私もよく聞いてないんだ。今日聞いておくね。」

そう言うとかのんはニッコリ笑った。