勇者の旅は終わったはずじゃ・・・第2話

「レオン様、お迎えに上がりました。」

 

「いらっしゃいm・・・」

 

俺は目を丸くした。

ハリスさんから話を伺った3日後にして、王の使者が来たのだ。

早すぎる。

ハリスさんからは「どんなに早くても一週間はかかるのでそれまでゆっくり準備をしてください。」と言われていたので、何も準備していない。

 

「すみません。こんなに早く来るとは思っていなかったので、まだなんの用意もしていないんですが・・・

それに手紙を送ったのは3日前だと聞きましたが・・・」

 

「そうですよね。すぐに来れたのは王都に移動能力を使えるものがおりまして、その者の能力によりすぐに来ることができました。」

 

「なるほど。特殊系の能力者ですか。便利ですね。」

 

「はい。それでこのことは内密にお願いしたいのですが・・・」

 

何やら使者の方が言いにくそうにしている。

まさかな・・・

 

「久しぶりだな。レオンよ。」

目立たないようにローブはしているが、声とただずまいですぐに誰かわかった。

俺はため息を吐く。

 

「お久しぶりです。王様。」

 

**********

 

「わざわざ出向いてやったのにため息とはなんだ!せっかくはるばる来てやったのに!」

 

相変わらずのめんどくささは健在だ。

だから王都ではなく、この田舎町に住むことにしたんだ。

またため息が出そうになる。

 

「それで、わざわざ一国の主人が俺のところに来て何の用ですか?」

 

「そうだ!それを言いにきたのであった。ハリスからもすでに話は聞いておるのか?」

 

「魔物が活発になっているということだけ。」

 

「そうか。それで大体は合っている。だが、今回に関しての問題なんだが・・・」

 

「”誰か人為的なものである”と言うことですか?」

 

王は目を見開いて驚いている。

「流石だな!伊達に元勇者ではないな。」

 

「もう10年も前の話です。それで俺にどうしろと?知っての通り、俺はなんの能力も持たない”無能力者”ですよ。戦闘になった際には逃げることしかできませんよ。」

 

「まあ落ち着け。何も戦闘になるようなことを頼みたいわけじゃない。それに戦闘なら優秀な我が軍隊がすでにやってくれている。わざわざ無能力者にお願いすることはない。」

 

王様はゲラゲラ笑っている。

俺が”無能力者”になったのは世界を救うためだったんだが・・・

世界を救ったものに対する礼儀を持って欲しい。

 

「はあ〜。面白かった。ゴホンゴホン!お前に頼みたいことはミケ神殿に行って、ある調査をお願いしたい。」

 

「ミケ神殿?」

ミケ神殿といえば、魔王幹部の一人であるミケと言う魔物が管理していた森の奥地にある神殿だ。

水属性が得意な魔物で、神殿を水いっぱいにして窒息させようとして、そして水の中では水系の魔物を大量に召喚し、窒息するのが先か、魔物に食われるのが先かと言う状況を作り出されたな。

まあ最終的には仲間の一人が神殿を半壊させて、ミケごとぶっ潰してしまったんだが・・・

今思うと結構悲惨な倒し方だったな。

 

「そうだ。お前なら魔王幹部の一人であるミケを倒したからその場所について詳しいだろ。そこを調査して欲しい。」

 

「確かに行ったことない人に比べたら詳しいかもしれませんが、あそこは戦いの際に半壊してしまって、そもそも入れるかどうか・・・

それに調査なら”ゼノン”がいるでしょう!あいつならあなたの軍に所属しているし、ミケ神殿のことは詳しいですよ!」

 

「それはできない。ゼノンは軍の幹部の一人。あいつには軍を取り仕切ると言う重要な仕事がある。それに今回の依頼は私が個人的に調査をしたいだけだ。それに軍を動かすとなるとな。」

 

「なるほど。だから俺なんですね。」

秘密裏に王が動いているから、軍を動かせない。

かと言って、信頼のある人物でないといけない。

 

「そんな秘密裏に動かないといけないほどなんですか?」

 

「まあな。一番は確信がないと言うことだ。私が個人的に動いて調査をしていいならそうするが・・・」

 

王様は入り口の方にちらっと目をやる。

この部屋には二人だけ。

 

使者にも伝えていないことなのか?

どう説得してここまで来たのか気になるが、深く聞くと面倒なので触れないようにする。

 

「それで調査とは何をするんですか?」

 

「神殿の中にマジックアイテムがないか見てほしい。」

 

「マジックアイテムですか?」

この世界には”能力者”と”非能力者”の2種類の人間がいる。

能力者とは生まれつき魔力を持っており、その魔力を消費し自分に備わった能力を使うことができる。

非能力者は最初から魔力を持ってないため、能力を使うことはできない。

だがそんな非能力者であろうと、能力者同等の能力を使うことができる。

それがマジックアイテムだ。

神殿を半壊させてしまったから、当然アイテムの調査まではできなかった。

 

 

「そうだ。そのアイテムがあるかないか見てほしい。道中に魔物がいてもまあ弱い魔物しかいないだろうから、いくら能力が使えないお前と言えどなんとかできるだろう。頼めるか?」

 

多少の戦闘にはなりそうだが、ミケ神殿までの道中であればそれほど魔物自体も強くはない。

武器さえあればなんとかなる。

それに王の命令は断ることができないと言うのもある。

だが気になることは・・・

 

「今回の魔物騒動とそのマジックアイテムにどんな関係があるんですか?」

 

「ある筋の情報の元、どうやらそのマジックアイテムが魔物たちを活発にさせるものであるらしい。そしてそのマジックアイテムがあるのが・・・」

 

「ミケ神殿と。」

 

「そう言うことだ。」

 

「そうなるとミケ神殿に強い魔物がいる可能性は高くないですか?何を根拠に弱い魔物だけとおっしゃっていたんですか?」

 

はっはっはっはと王様は大笑いしている。

俺なら死んでも良いと言うことか?

 

「いや、まだ確信はないと言ったであろう。あくまで聞いた話によるものだ。それにお前にはそのアイテムがあるかどうかの調査をしてほしいだけだ。やばくなったら逃げられるように移動能力を持つ者も同行させる。道中に出てくる弱い魔物は仕方ないが、それなら強い魔物とは戦闘をせずに逃げることもできるだろう。全くのリスクはないわけではないが、お前なら不可能ではないはずだ。当前、褒美もやる。」

 

あくまで調査。

情報が確定したら、王直属の軍に向かわせる。

俺の仕事は情報の筋が確かかどうかを調べることか・・・

 

「ちなみにその情報源はどこから?」

 

「それは言えない。まあ一国の王になれば、様々な情報網はあると言うことだ。」

 

なるほど。

信頼できる人物ではあるが、確信はない!と言ったところか。

武器もあり、いざとなったら逃げることも可能な状況も用意し、さらには褒美までもある。

リスクはあるが、圧倒的にプラス面が大きい。

これはただの調査にしては大ごとだな。

それにいくら確定がないと言えど、王様が直々に来てそこまですると言うのは、ほぼほぼ情報源は確かだろう。

そうなると・・・

 

「わかりました。お引き受けいたします。ですが一つだけお願いがあります。」

 

「わかった。私に叶えられることであれば聞こう。」

 

「もしマジックアイテムがあったら俺がもらっても良いですか?」

 

王様は面食らったように目を丸くした。

「な、なんだと?そんな物をもらってどうする?店が繁盛してなさすぎて魔物にでも来てもらうつもりか?」

 

 

「そんなわけないでしょう!売れてないのは事実ですが・・・。

単純にマジックアイテムを使っている人間の上書きができれば、魔物の発生も止められる。それに腐っても元勇者の俺が管理している方が安全ではないですか?もし、魔物が活発化したら、王様には俺がマジックアイテムを持っているのはわかっているし、すぐに疑いをかけられるでしょう。ダメですか?」

 

王様はしばらく考える。

俺はその間、ずっと王様から視線をそらさなかった。

 

なぜ俺がそんなことを言いだしたかと言うと理由がある。

王様の情報先の相手。その特定だ。

 

王が言っているのだから、それなりに信頼を置ける人物であるのは間違いないだろう。

しかし、これは何か裏があると俺は踏んでいる。

 

一国の王にそんな情報を流す必要性だ。

王に話をできるぐらいの人物であるなら、この情報の筋を明らかにした上で、王に伝えるはずだ。

 

そうなるとその人物は信用はできるが、王様の中で絶対的な信用を持てるほどではない、

もしくは信用はあるが確定していない情報を流したかのどちらかだ。

 

後者は考えにくい。

何故なら情報が確定していないのに、王様に流すとなると俺がわざわざ呼ばれる意味がない。

 

そうなると前者。

だからこのマジックアイテムがあり、魔物の活発化はほぼほぼ確定だと言える。

しかし、情報筋に絶対の根拠はない。

 

今回の情報元の人物は王様のことをよくわかっている人物である可能性は十分高い。

そうなれば俺のところに話をすると言う情報を、その人物も仕入れていてもおかしくない。

 

ならそれを逆手に取る。

俺がマジックアイテムを所持することにより、なんかしらの接触を試みるはずだ。

 

「わかった。そうしよう。ではとりあえずレオンの準備もあるだろうから、3日後にまた来る。」

とりあえず思惑通り進んだな。

後は入手するだけ。

 

「あと、これを。」

 

王様は俺にあるものを渡してきた。

伝説の勇者だけが持つことができるマジックアイテム。

そう。

勇者の剣だ!

 

「久しぶりに見ましたよ。懐かしいですね。」

 

「だろう?これがあれば多少は魔物も倒せるだろう。」

 

「そうですね。」

 

勇者の剣。

俺が魔王討伐の際に持っていた剣だ。

勇者となる者にはこれを歴代の王様から授与され、初めて勇者として認められる。

しかし、能力で全て解決していたし、使うことはほとんどなかった。

 

だからほぼ新品同様で、旅に持って行ったとは思えないぐらいに綺麗だった。

さらにこの剣の能力で切っても刃こぼれしないと言う性質があるため、なおさらである。

 

「まさかまたこれを持っていくことになるとは・・・」

 

「まあそう言うことだ。ではレオンよ。また3日後に会おう。ではさらばだ!」

そう言うと王様は使者たちと帰って行った。

 

3日後か。

俺にできることは店の前に休みますの張り紙をするぐらいだ。

まあ来てくれるお客さんは限られているから良いんだがな。