勇者の旅は終わったはずじゃ・・・第4話
「うおらあああ」
ザシュ!
「スゴイっス!流石レオン様ああ!」
ルラがすごく嬉しそうにしている。
「まあ、魔物自体が弱いだけだよ。」
まあ強かったら勝てないんですけどね。
「そんなことないっス!レオン様が強いからですよ。だって先から能力を一度も使ってないでありますし。」
痛いとこを付いてくる。
そうだよな?
普通は疑うよな。
三日間一度たりとも能力を使っていない。
普通は疑う。
いくら弱い魔物といえど、それなりに数はいるからな。
「ま、まあな。能力はむやみやたらに使うものじゃないしな。」
俺は斜め左上あたりを見ながら言う。
「そうなんスか?でもそんなに魔力もありますし、能力を使えば魔物を一掃できるのでは・・・?」
よくわかっていらっしゃる。
「いや、それはだね。能力には弱点があるだろ。だからあまり見せるのはそれだけ戦闘においてはリスクになるんだ。誰が見てるかもわからないしな。」
俺は適当に誤魔化す。
誰が見てるかわからないって、そんなのいつでもそうだし、何ならルラだってそうだ。
これはまずいことをしたか?
ルラはプルプルしている。
やばい。
流石に誤魔化しきれなかったか。
「そうなんスね!流石レオン様っす!そこまで考えて行動していたとは!これが伝説の勇者様!」
へ?
ルラがキラキラした目をこちらに向けてくる。
あまりの眩しさと罪悪感から俺は彼女の視線をそらす。
何とか誤魔化せた。
まあ嘘はついていない。
能力の強さというのは、基本的には魔力量によって判断される。
魔力が多い人がこの世界では強い能力者とされるのだ。
しかし、魔力が多いからと言って、魔力が少ない者が魔力の多い者に勝てないかというとそうではないのである。
これが能力の相性である。
属性系であれば、火→水→雷→土→植物→風の矢印の向きごとに相性が悪い。
わかりにくとい思うが、火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は土に弱くと言うように弱点の属性というものが存在する。ちなみに風は火に弱い。
それに加え、属性にはそれぞれが得意とするフィールドがある。
逆に苦手なフィールドというものもある。
例えば、火の能力者で魔力が多い能力者がいたとする。
相手は自分よりも魔力が少ないが、水の能力者で、池などの水属性の能力者が得意なフィールドであるとしよう。
単純に魔力量だけを考えれば、水の能力者が弱いということになる。
しかし、先ほども言ったように、能力には相性が存在する。
水属性は火の属性に相性が良い。
そして水辺のフィールドである池では、水の能力者は相性が良く、火の能力者にとっては相性が悪い。
そうなると、火の能力者にとっては水のフィールドと水属性の相手ということで、かなり相性的には不利なのだ。
さらに得意なフィールドで戦えば、通常の魔力の消費を抑えて、能力を使うこともできる。
こうなると魔力の量がいくら多くても、まず火の能力者では太刀打ちできない。
これが相性だ。
では特殊系はどうなのか?というと、特殊系には魔力+条件を揃えることが必要であると前に言ったと思う。
この条件を満たせなければ、特殊系は能力の発動すらできない。
つまり相手に特殊系の能力の条件がバレたら、その条件を満たさないように対策することも可能なのである。
だからこそ、あまり能力は見せるものではない。
まあ俺の場合は見せる能力がないのだがな・・・。
俺たちはしばらく弱い魔物を倒しながらミケ神殿へと向かった。
ミケ神殿が近付くにつれて、魔物の数が増えていった。
魔物の数が多いな。
やはり、マジックアイテムがあるのは間違いないようだ。
それにしても多い。
いくら弱いとはいえ、能力なしにこの数はきつい。
何が能力がなくてもそれぐらいなら俺にできる、だ!
めちゃくちゃハードじゃねーか!
「レオン様危ないっす!」
俺はそんなことを考えていて、後ろから近づいていた魔物に気づけなかった。
「グッ!」
ダメージを受ける。
「レオン様!」
ルラが近寄ってくる。
「レオン様、大丈夫っスか?」
「大丈夫だ!かすっただけさ。ルラは危ないから俺の後ろにいてくれ!すぐに片付ける。」
俺は先ほど俺にダメージを与えてきた魔物に剣を振り下ろす。
一瞬にして、魔物を倒した。
そしてそんなこんなでようやく、魔物たちを倒し終えた。
「ふう。ようやく片付いたか。(魔物多すぎだろ。)」
「レオン様!お疲れ様っス!よかったらこれを。」
そう言ってルラは俺に薬草をくれた。
「いいの?これ?しかも上薬草だし。なかなか手に入らないんじゃ?」
「いいんス!自分の分までレオン様が魔物を倒してくれてるでありますし、戦えない分、レオン様の力に少しでもなれたらと思うっス!」
彼女は少し照れくさそうに笑った。
そっか。
なんか懐かしいな、この感覚。
冒険者をやっていた時は俺も仲間に薬草をあげたり、もらったりしたっけ?
これがパーティーの良さだよな。
すっかり今では忘れてしまった感覚だ。
俺らはそんなこんなあり、魔物を倒しながら進んだ。
そして。
「着いた。」
「これがミケ神殿スか?何というか・・・。」
「ボロいっスね。」
それに関しては本当にすまない。
俺の仲間が半壊させたからな。
俺は思わず下を向いた。
「こんなところに本当にマジックアイテムがあるんスかね?それよりも入口が見当たらないスけど・・・。」
俺はまたもや下を向く。
俺らはこの神殿を半壊させ、能力によりここから脱出したのだ。
だから入口がどうなっているのか知らなかった。
それにもう来る事もないだろうから、全く気にせずにいた。
それがこんなところであだになるとは・・・。
「でも魔物の数からして、多分マジックアイテムはこの神殿のどこかにあるはずだよ。どっか入れないかな?」
「ねえレオン様!レオン様の能力で入口を作るというのはどうスか?」
俺はあまりの衝撃に目を見開く。
この子、何を言い出すんだ?
「お、俺の能力は、ほ、ほら!わかるでしょ!?この魔力。こんだけの魔力があると手加減しても入り口どころか神殿ごと吹き飛ばしちゃうからね。」
やばい。
これは流石に誤魔化せないか?
手加減して、神殿ごと吹き飛ばすってどんな能力だよ。
俺は恐る恐るルラの方を向く。
「そうなんすね!流石勇者様っス!」
ルラはキラキラした目をこちらに向けていた。
あ、なんとかなった。
この子の中の勇者像って一体・・・。
難は逃れたが、これで能力が使えないとわかった時の彼女の姿が想像できない。
ここまで信頼があると、嘘つくのも申し訳ないが、仕方ない。
俺たちは神殿の入り口を探した。
10分ほど探し続けたが、見当たらなかった。
「本当に入り口なんてあるんスかね。自分つかれったっス。」
「そうだね。ちょっと休もうか。」
「そうっすね。ちょっと休むっs」
ガチャ。
ゴゴゴ・・・。
神殿の扉が開いた。
ルラが寄っ掛かったところが、ちょうど入り口を開ける扉のボタンになってたらしい。
俺たちはあまりの驚きに声を出さず、目を見合わせた。
俺は我に返ってやっと声を発することができた。
「ルラ。どうやら君はラッキガールみたいだね。」
俺たちは中に進んだ。